炊飯事情

あのね、ご飯を炊こうとしているんです。

お米はもう……一年くらい前に買ったお米ですよ。諸事情があってずっと米びつの中にいましてね。幸い先生のおかげで虫は湧いていませんでした。ありがとう、米びつ先生。

それで、この米を今日処理、つまりは食べてしまおうと思ってしまったわけです。でもこのまま炊くと、たぶんちょっと難ありな炊き上がりになってしまうかなと思ってどうしようかと悩んでいるところに出てきたののが「丸美屋とり釜めしの素」だった。彼は着流しの懐から出した片手をくいとアゴに当てながらこう言いいました。

「兄さん、今晩米を食うんだったら、ちょいとあっしに任せちゃいただけませんか」

彼が余裕っぷりに言うので、私はそいじゃあひとつ任せてみようかと思い、炊飯の準備にとりかかりました。

「米びつの底が見えたらorz」というのは「たそがれ清兵衛」のブッタ斬られる人のボヤきですが、こっちはこの米全部たいらげたら新米買って来てブチこめる余裕はある。ザザザぃと計量カップですくいましたね、手際よく。

あっ、2合しかない。 丸美屋とり釜めしの素を作るのには3合必要。

私がそんな感じで青ざめていると、釜めしの素は言いました。
「ちょいと兄さん。あっしの胸元を見てくだせえ」
そう言われてひょい、と見るとそこには、

「3合以外の炊飯方法も掲載! 詳しい方法は箱の裏面と内側をご覧ください」

私は興奮して力任せに外箱を力の限り破いた。釜めしの素はあっ、と声を漏らしたが私の力には勝てず、目をそらしながらぐっと唇を噛み締めて私の乱暴を振るえながら耐えた。
パックの裏、釜めしの素を購入した者のみが知りうるその秘密の花園にはこう書いてあった。

「2合で炊飯する場合:白米2合を炊く時と同じ水加減にし、本品の約2/3袋(約90g)を目安に入れて、よくかき混ぜてから普通に炊いて下さい。※開封後は必ず使い切ってください」

【※開封後は必ず使い切ってください】

私はそのアテンションプリーズに愕然とした。
「釜めし……すまねぇがウチには冷蔵庫がねえ。今日ここでお前さんを炊いちまったら、残りは俺にはどうにもならねえ」

「いいのよ……」

「えっ!?でもそれじゃお前…お前が内容量134gである意味がなくなっちまう……せっかく今日までお店の人に直射日光を避け、常温で保存されたんじゃねぇか。しかも欄外上部に別途賞味期限を晒してまで……」

「そんなの……この家に来た時からなんとなくわかってたんだ、アタイ。あの日アンタにヤマザキデイリーストアで買われた時からサ……」

「そうなのか?俺は何となくお前を買っただけだったんだぜ?」

「あの日はさぁ……ていうかあの月はさ……ヤマザキ春のパン祭りでさ……みんながさ、使いもしない小皿をもらうのに点数シールのついたパンを買っていった……。ダブルソフトなんて売れっ子でさ、あの子、毎日食卓でネオソフト塗られて食べられてんだろなって考えたら、アタイなんだか悔しくなってさ……。でもアタイ、お米あっての釜めしじゃない?だからいいの。全部使われなくても、誰かに炊いてもらって、美味しい、白米もいいけど、とり釜めしもいいよなって言ってくれたらそれでいいの」

「釜めし……」

「だから食べて。2合分の配合量でいいからさ」

「釜めし!」

「賞味期限は過ぎちゃってるけどさ」

捨てました。

Be the first to comment

Leave a Reply

Your email address will not be published.


*


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください