
「いらっしゃいませ」
「これ、お願いします」
「ありがとうございます。お弁当は温める人ですか?」
「はい」
「そうですか。ガサガサ」
「……。ちょっと待て。……おい。温めてくれよ」
「は?」
「は、じゃねえよ。この弁当温めろよ。何袋に入れようとしてんだよ」
「あ、あぁ〜。いや、ただ単に『この人お弁当温めて食べるんだー……家で』と思っただけなんで」
「何言ってんだお前。今温めてもらいてーに決まってんじゃねえかよ」
「でしたらポットはそちらになりますんで」
「誰が湯せんしろっつったよ。レンジだよ、レンジ。デ・ン・シ・レ・ン・ジ」
「デンシレンジって何か、どっかの国の博士みたいな名前ですよね」
「聞いてねえよ。いいからこれ温めてくれよ」
「何を発明した人なんでしょうねぇ」
「電子レンジ自体が発明品なんだよ! いいからそこの電子レンジ使わせてくれよ」
「いや、これは僕の食玩コレクションを入れておくケースにしてるんで、ちょっと……」
「店の物勝手に私物化してんじゃねえよ! 今すぐ中のもん全部出してこの弁当あっためろよ!」
「でもひな壇も作っちゃったしなあ……」
「知らねえよ!」
「あと、実はこの中でハムスターを5匹飼っているので、開けた途端に飛び出してきてその辺チョロチョロするかもしれませんが、大丈夫ですか?」
「お前は脳タリンか! 間違ってスイッチ押したら中のハムスター死んじゃうだろ!」
「あ、そうか……それは大変だッ!」
「おぃ開けようとすんなよ! せめてこっちにも心の準備をさせろ!」
「……だってそのお弁当、このレンジで温めて欲しいんでしょう?」
「うー……。わかったわかった! もういいよ! このまんま持って帰る!」
「……客だからって言う事コロコロ変えやがって」
「今何か言ったか!?」
「お箸はお付けする人ですか?」
「話そらしやがって……付けるよ!」
「そうですか」
「……」
「……」
「……だからくれよ! 箸! チョップスティックス!」
「ふぅ〜。いいけど今回だけですよ」
「毎回くれよ! つかもう二度と来ないけどな!」
「悪口言うのも、愛情の裏返しなんでしょ?」
「素直にアタマきてんだよ!」
「そうですか。はい、こちらお箸です」
「おう、それでいいんだよ」
「パチン。こっちが僕のでこっちがアナタの」
「勝手に割るなよ!」
「ね♪」
「何でいきなり恋人気分出してんだよ!」
「また会えた時、この二つの箸を重ねると奇跡が起きるという伝説が……」
「聞いたことねえよ! いいからそっちもくれよ! 一本じゃ食えねえだろ!」
「前から思っていたけど、あなたは本当に夢のない人だ……」
「今日が初対面だよ! 現実主義者でかまわねぇから早く弁当食わせろよ!」
「そうでしたね。ごめんなさい、カッちゃん……」
「誰がカッちゃんだよ! つか誰だよそいつ!」
「この後に入るシフトの子です……」
「それが何なんだよ! 何だ、交代するまでお前はボケ続ける気か!?」
「滅相もございません……お買い物以上でよろしかったでしょうか」
「この状況でついで買いなんかする訳ないだろ! もういいから、全部でいくらだよ!?」
「680円になります」
「はい、じゃあこれ」
「1,000円からお預かりします」
「おう」
「320円のお返しになります……お釣りは温めますか?」
「温めねえよ!」
「あなたのレンジ愛には負けました。今日はもう思いっきり温める事にしましょう!」
「何言ってんだお前! あっバカやめろ、ヤメロー!!」
ガチャンチューチューチャリンチャリンバタンピッバチバチバチバチバチドカーン
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