
あるはれたたひ、はたらきもののありたちはきょうもみんなでたべものをせっせとじぶんたちのすへとはこんでいました。
あせをながしてはこんでいるとちゅう、ありたちはみみざわりなおとがどこかでながれているのにきづきました。
それはいっぴきのきりぎりすのばいおりんのおとでした。
ありたちはそのなんともひどいおとにいらいらしました。
そこでたいちょうありがきりぎりすにいいました。
「ぼくたちはあついなか、みんなやすまずにはたらいているんだ。そのひどいばいおりんをひくのをやめてもらえないか」
するときりぎりすはいいました。
「でも、ここでれんしゅうするのがいちばんおちつくのです。うまくなりたくてまいにちれんしゅうしているのです。おねがいですかられんしゅうをつづけさせてください」
たいちょうありはしばらくのあいだ、きりぎりすをせっとくしましたが、きりぎりすはどうしてもうんといいませんでした。
とうとうこんまけしたたいちょうありはほかのありたちに、
「しかたがないがここはわたしたちだけのばしょではない。にんげんにふみつぶされたり、ありくいにおそわれたりするわけではないのだからがまんしてしごとをつづけよう」といいました。
それからもありたちはまいにちそのみちをとおりました。
あいかわらずへたくそなきりぎりすのばいおりんがきこえてきます。
みちばたでばりおりんをひくきりぎりすに、つめたいしせんをおくったり、ろこつに「へたくそ」などといいはなつありもいました。
はじめはれんしゅうにしゅうちゅうしていたきりぎりすもだんだんひょうじょうがくらくなり、まいにちだったれんしゅうがふつかにいっかい、いっしゅうかんにいっかいになり、きりぎりすがありたちのとおるみちにはあらわれなくなったころ、ありたちもきりぎりすのことをわすれていました。
やがてふゆがきました。
ありたちがふゆじたくをしていたあるひ、とつぜんのおおあめがふりました。
するとなんということか、あまりのおおあめでこうずいがおきました。そのこうずいはありたちのすにすごいいきおいでながれてきました。
ありたちはおおいそぎで、じぶんたちのすからにげだしましたが、なつのあいだいっしょうけんめいはたらいてためたしょくりょうはぜんぶながされてどこかへいってしまいしまた。
ありたちはぼうぜんとしたあとしくしくとなき、やがてけんかがはじまりました。
そのけんかも、ふゆをこせないかもしれないというじじつをそれぞれがおもいだしたころにおわり、みんなだまってしまいました。
とつぜんうしろから、「すいません」とこえがしました。それはあのきりぎりすでした。
「あの、どうはげましたらいいか、わからないのですが、せめてみなさんのきぶんをまぎらわすのに、ぼくのばりおりんをきいていただけませんか?」
ときりぎりすはいいました。
ありたちは、
「ふざけるな、こっちはそれどころじゃないんだ」
「しょくりょうをもってきてくれたんじゃないのか」と、くちぐちにひどいことばをあびせました。でもきりぎりすはかえろうとしません。
しばらくするとたいちょうありが、
「きみのばいおりんのひどいおとはいまのさいあくなきぶんにぴったりかもしれんな。それできみのきがすむのならひくがいいさ」とつかれたかおでいいました。
それをきいたきりぎりすはしずかにあたまをさげ、ちょっとしんこきゅうしてけーすからばいおりんをとりだし、げんのおとをちょうせつしてから、もういちどしんこきゅうしてばいおりんをひきはじめました。
そのおとはなんと、うなだれていたありたちのかおをきりぎりすにむけさせました。あのひきいたひどいおとではない、きれいなおとがきこえてきたからです。
そのえんそうは、あたたかくて、やさしくて、こころがおちついて、そしてなんだかなみだがでました。
きりぎりすはあれからみんなのじゃまにならないばしょをさがして、まいにちれんしゅうしていたのです。
ありたちはきょくをきいているうちに、みんなでちからをあわせてあしたからまたがんばればなんとかふゆをこせるさ、というきぶんになりました。
やがてとつぜんのそうどうにつかれていたありたちはうとうととしはじめました。
ありたちがみんなねむりについたころ、きりぎりすのばいおりんのおとはやんでいました。
れんしゅうのためにたべものをさがすひまがろくになかったきりぎりすは、ありたちのためにえんそうするのがせいいっぱいのたいりょくだったのです。
それでも、さいごにじぶんのえんそうがみんなのこころにとどいたことをかんじたきりぎりすは、とてもしあわせそうなかおで、ありたちとはちがう、ながいながいねむりについたのです。
おしまい
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