映画感想: セッション

夜中、眠れなかったのでスマホで映画でも観るかと思ってhuluにアクセスしたら「セッション」があったので、寝落ちしてもいいやという程度の気持ちで視聴をはじめた。吹き替えで、結局最後まで見た。

この映画は2015年公開当時、鑑賞した映画評論家とジャズプレイヤーのあいだでそれぞれの想いをやりとりしたテキストが幾度か交わされるというイベントが発生し、ネット界隈で話題になった。評論家は絶賛、ジャズプレイヤーは駄作と切り捨てていたので、結果着地点の無い話として終わった。

そんな事を思い出しながら観た。感想としては、音楽映画としては駄作、コメディとしては傑作、というものだった。

ざっとあらすじを書くと、音楽大学でジャズバンドの講師をしていたギョロ目ハゲが、熱心にドラムを練習していた生徒に可能性を見いだし、スパルタ方式で名ドラマーへ鍛えるという話なのだが、それを成立させるために必要な要素があちこちで抜けていて、結果小手先のドラムソロで観客を煙に巻いて強制的に感動を演出する手法をクライマックスに導入していた。

ツンデレ状態だった師弟関係にある男同士、その弟子がクライマックスで師匠(講師)も認めざるを得ない結果を出す、というシンプルな話なのだが、師匠の凄さは劇中で幼稚にも「偉いから凄い」「バンドをコンクールで優勝させたから凄い」「なんとなく音感やリズム感が良さそう」という程度にしか演出されない。

例えばこれが料理人の話だとして、その師匠が作った料理を弟子がひとくち食べ、「明らかに次元が違う美味しさだ」と感動するシーンが入っていれば、弟子が師匠にどんな仕打ちを受けようが付いていく、という理由は観客に伝わるはずだ。その域に達するには、この男からその技を盗まなければたどり着かないということを、己が舌で体験し確信しているからだ。

また「この映画はスポ根に近い」という意見を散見したので、では「テンポ400の裏打ちを、選ばれた三人のうち誰かが正確無比に叩けるまで練習する」というシーンをスポーツものに置き換えてみよう。
「今日はこの中の誰かが100m10秒前半のタイムを出すまでは終わらんからな!! 何秒だ!?」「10秒56です!」「バカヤローもう一回走れ!! 何秒だ!?」「10秒68でした!」「やる気があるのか!! もう一度!! 何秒だ!?」「11秒02です!」「馬鹿野郎、11秒じゃねぇか!! 俺は10秒前半を出せと言ってるんだ!!」……このやりとりから「笑い」以外のなにか、例えば「感動」とかいうものが生まれると信じている人が入れば、普通の人ならこころのお医者さんを紹介したくなるだろう。

そんな感じで、この映画には主人公がそれでもこの講師を師と仰ぐ理由となるはずの、大事な場面が無い。そうやってやっと始まった演奏練習でバンドが曲を演奏し終わった瞬間、プレイヤー側に訪れるはずの達成感や至福は描かれていないし感じない。だから無慈悲な鬼教官としてスパルタ式に主人公を叩き上げる姿を描かれても、ここから何か音楽的に凄いものが生まれそうな気はしない。見よう見まねで相手を縛り上げて鞭をふるうだけのSMは、単なる暴力だ。

ふむ、先ほど書いてて気に入ったので、もうここから一度料理人例えで映画のクライマックスを振り返ってみる。

主人公は鬼教官から自分が主宰する数千人規模の大宴会の料理を仕込むよう頼まれる。しかしその当日、鬼教官(主宰者)は主人公への恨みから、全ての刺身醤油をソースに入れ替えて主人公に恥をかかせる。……そんな事をして、一体誰が得をするというのか。

ところが主人公は醤油とソースの入れ替わった刺身料理を食べされられた観客に向かって、いきなり凄い勢いでキャベツの千切りを始める。もの凄いスピードながら、その手さばきは正確無比だ。しかし次に切るはずのキャベツが床へ転げてしまった。千切りしている事を止める事が出来ない主人公に変わり、鬼教官がそのキャベツをまな板に載せる。彼は主人公の千切りに、すっかり魅了されていたのだ──。

そんな話があるか、コメディ映画を除いて。

実際この二人のような料理人がいたとして、彼らが料理界に革命を興そうと鼻息荒く努力していたとしても、その夢が叶うことは無いだろう。何故ならば、この二人にはそもそも自分たちの作った料理で客を満足させよう、感動させようという気が端から無く、頭の中では超絶技巧と正確な調理時間の事しか気にかけていない。残念ながら「伝説」というのは、その道に詳しくない人が触れても感動する事が出来るものに対して、その「素人たち」が提供者に与えるものなのだ。

単なる食事を芸術的な高みに届く出来にするのは料理人の仕事だが、それは客に食べてもらって、「美味しい」と感じさせた時点で初めて成立するのである。

「お前らそういうことは家でやれ」というアドバイスを与えたくなる映画であり、また冒頭に書いたようにコメディとして、「包丁人味平 (悲喜こもごもを考えると「釘師サブやん」の方が近いか)」みたいなトンデモストーリーということをわかった上で鑑賞する分には、充分に面白い一本だ。

こんな映画を見せられたジャズプレイヤーが怒る理由は、わからいでもない (苦笑)。ご愁傷さまです。

J.K.シモンズの演技は素晴らしい。こんな話を力づくの演技で納得させるさまをみて、役者ってすげえなって素直に思えた。

おしまい

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