死ぬのも怖いが、今は無職になる方が怖い

2月に入りました。

3月末で今働いているところとの契約が切れるので、4月頭から働けるところを探す準備をそろそろはじめなければいけません。

パソコンが好きなものですから、出来ればまた一日パソコンで作業する仕事に就きたいなァと思っているのですが、そういうところに面接に行こうとすると、ポートフォリオというものを持って来いと言われるのです。

ポートフォリオというのは簡単に言うと今まで作った成果物をまとめたもので、Web屋さんの場合にはホームページのスクリーンショットやバナーの一覧をプリントアウトしたりします。

ねえよそんなもん。

成果物を作ってるは作ってるのですが、守秘義務の関係でデータ持ち出せないし、「自分が作った」とも言えないのです。困ったにゃー。

そういう訳でとりあえずレンタルサーバにディスク領域を確保し、ダミーのWebサイトを作る事にしました。わたしはこれだけの腕があるんですよ、という事をアピールするには、そっちの方が早い事もあるからです。

なんにもやってません。

誰か私の家に来て、これから私が面接に行くところで見せたら感心してもらえるようなWebサイトを作ってもらえないだろうか。そう考える毎日です。

残業がほとんどない職場ですので、18時には帰宅しています。帰るまでにコンビニで買ったチューハイ(ストロングゼロレモン350ml)を1缶開けています。

まず着替えて、今日こそはポートフォリオを作るんだ、と意気込みます。そう思う一方で、お腹が空いている。空腹が気になると良いものは作れない、そう思って晩御飯を食べる事にします。しかし今から炊飯をはじめると時間がかかるので、ちょっと外食にでも行こうかと家を出ます。

歩いていると、ポートフォリオに載せておくとアピール出来るんじゃないかというアイデァなんかも浮かんできて、いよいよこれは帰ったら凄いものが作れるぞとワクワクします。そんな事を思いついた自分へのご褒美として、コンビニでチューハイ(ストロングゼロレモン350ml)を買い、ぐいと呑むのです。

自分のテンションが上がっていくのが分かります。アイデァもどんどん出てきます。こりゃあちょっと、このまま帰るのはもったいないな、今出たアイデアを具現化するには自分のスキルが足りないから、ちょっと池袋あたりまで出て専門書でも買うか、だって住んでいる近所の本屋では見つかりそうにないもの、そう思って駅まで行き、電車に飛び乗ります。

池袋に行き、本屋で品定めします。そのうちに酔いが醒めてまいりますので、だんだんと冷静さを取り戻してきます。この本は今の自分に本当に必要な一冊なのだろうか……と。

とりあえず今日買うのは止めておこう、こういう事はやはりシラフの時にするべきだ、と判断した私は夕飯がまだだという事を思い出します。幸いな事に、懐は本を買おうと思っていた分だけのお札が入っていて温かい。これはひとつ呑み屋の一件でも冷やかしに行こうじゃないかという気分になり、しかし今下がりつつある自分の酔い加減を再びブーストするために、コンビニでチューハイ(ストロングゼロレモン350ml)を買い、ぐいと呑むのです。

もう、完全に良い心持ちです。こんだけ盛り上がってるんだから、今帰って机に向かって作業を始めるなんてできない。冗談じゃない、人生は一回しかない、今日という日はもう二度と来ないんだ、それを楔(くさび)として自分の心に打ちこまなきゃいけないんだ。そう思ったらご飯ひとつにも慎重にならざるを得ないじゃないですか。

ビールというには酔い過ぎた。ビールで良いなら嵯峨谷へ行って、冷やし蕎麦と一緒にプレミアムモルツを呑み、蕎麦を食い終わったらその残りつゆを楽しむため、再度かき揚げを注文してそれを浸しながら二杯目のビールを呑む、という事が出来るでしょう。いや、そんなんじゃだめだ。

だいたいこの寒空の中池袋まで来ているんだ、ここから帰るにも時間がかかるんだから、体を温めなきゃいけない。そうなるとここはやはり熱燗でしょう。安酒でもいいからチンチンに燗のついた日本酒をキューっと呑むに限る。しかしそうなると、熱燗を出してくれるような店で食事も安い店をこの界隈ではまだ開拓していない。だからとりあえず自宅最寄の駅まで戻って、駅前のさくら水産に飛び込むしかないんですよ。あそこならどんなメニューがあっていくらくらいするか知ってるから。

踵(きびす)を返して池袋駅に向かいます。もうこの町に用事はないんだ、私は一刻も早く自宅最寄駅まで帰らなければならないのです。しかし家に帰るまでの電車に乗ってる間が手持無沙汰だ、だから私は駅ナカのNew Daysでチューハイ(ストロングゼロレモン350ml)を買い、ぐいと呑むのです。

あっという間に電車は最寄駅に到着したくらい、時間の感覚が柔らかくなっているのです。さぁさくら水産行って熱燗頼むぞ! と思う傍らで、家の近くまで戻ってきたんなら家で燗をつければ良いじゃない、と考える私がいます。何てとんちの効く男なんだ、私は。そういえばそろそろ近所のスーパーも半額シールが貼られる時間帯です。半額シールが貼られた商品は、正規の値段の1/2で商品を購入する事が出来るという事です。こういうのをササッと買って家計を助けるのが主婦の味方です。よしじゃあスーパーに行こうじゃありませんか。

スーパーでは半額シールが丁度貼られようとしているところでした。それを狙って、待ち構えている客がいます。ふん、お前らは何だ、正規の値段でものを買おうという心意気がないのかという気持ちになりつつ、半額シールが貼られた商品のなかで今日買うべきものを吟味します。

熱燗に合う半額商品。こっちは懐が温かいんだ、何でも持ってきたらいいじゃねぇか、という威勢の御大尽なのです。やりました、お肉のコーナー、ローストビーフに半額シールが貼られました。今日はこれをつまみに熱燗だ……だがまてよ、本来の半額で売られているということは、2つ買っても普通の値段じゃないか。お得、これはお得です。もう2個買うしかない。確かに酒で盛り上がってる途中でつまみが切れたら大変だ、気の利く男ですよ本当に。

そうやって無事ローストビーフを買い、帰宅しました。ちょっともう酔ってるので、すぐに熱燗というのはよそうかなという気分になります。しかし腹は減っているので、今しがた買ってきたローストビーフのパックを開け、それをつまみながらインターネットを見たり、マンガを読んだりします。そうすると腹も膨れてくるので、旦那、そろそろお酒の方もお願いしますよって胃袋の方から呼び鈴が鳴るもんだから台所へ行って鍋に湯を入れ火をかけて弱火で燗をはじめる。温かくなるまでに時間がかかるからまたローストビーフを食べながら待つ。しばらくすると台所の方でコトコト言って来たもんで、こりゃあもうすっかりいいだろうということでアチチなんていいながら徳利を持ち上げて猪口と一緒に部屋まで持ってくる。そこで気づくんですよ、もうローストビーフ食べ終わっちゃってたことに。

困ったなと思うものの、まあでもこれはまだ最初の一合だ、とりあえずこの徳利を空けてからまたつまみのひとつでも買ってくればいいじゃねえか、という事でまた呑み始める。アテにはとりあえずさっきのローストビーフにかけたソースを小指ですくって舐めている。ちょっとしたアクセントになって意外と酒が進む。もうここまで来たら今晩はこのまま満足するまで呑んで寝るしかない。こんな状態で作業やら何やらしたって、ろくなもの出来やしないんだからって熱燗を呑む。

一合あけたんで今度は次の燗がつくまでにダッシュでコンビに行ってこようって思って鍋に徳利を入れて弱火にする。弱火にするったってIHですから、火事にはなりゃしない。タタタッて駆け出してコンビニ、肉は今食ったからもういいや、とりあえずホタテの貝ひもを買ってクチャクチャやろう、あんま無駄遣いは出来ないからつまみはこれだけにしておこうってレジに向かう。

家では熱燗がそろそろコトコト言っていて、まるで俺の帰りをソワソワと待ちわびてるみたいで可愛いじゃねえかって想像しているところへ飛び込んでくる「おでん70円均一セール」の文字。これだ。神が本日俺をコンビニへ遣わせたのは、この出逢いをさせるためか。しかも本日最終日とくる。明日からは100円になるものもあれば120円140円になるものもあると考えると黙っちゃいられない。

店員が器の大きさはどうしますかって聞いてくるから、器の大きい男に見られたい私は当然大きい方を選ぶし、そこにもう入らないってくらいまでおでんを注文してやろうと思う。まず大根を2つ、それからがんもと、つくねと、ウィンナー巻きと、へぇしそつくねなんてのもあるのかい、それじゃあそれもひとつ、それからちくわぶと、さつま揚げ。このくらい頼むといくら大きな容器と言えどももう勘弁してくださいって泣きそうな顔をしている。そこを一喝する、バカ野郎、お前にはまだ蓋の分のスペースがあるじゃねぇか、ということで最後にはんぺんをひとつ。これを最後に取っておいたのよ。何故なら最初に頼むと底の方に行っちゃって、他のおでんの重みで潰れちゃうからな。繊細な子なんだよはんぺんは。辛子多めでください、箸は結構です。

さあもうこうなると小生宅では大宴会、案の定熱燗はこれまでにないくらい熱燗ッてたので、待たせたなという優しい一言をかけてやりつつ鍋から取り出す。そんでもっておでんの蓋を開けるとくす玉を割ったのを逆立ちして見ているような勢いのビジュアルで湯気が立つ。食ってくれ、さぁ食ってくれとおでんも言っている。馬鹿野郎いい度胸してるじゃねぇか、言われなくたってそのつもりだ、こっちには熱燗だってあるんだ、お前ら全員腹の中へひとつのこらずしょっ引いてやるからな!

喉の渇きで目が醒めて、時計見たらまだ朝の4時。ちょっと気持ち悪くなってトイレに行き、こみ上げてきたものを吐しゃする。

ああ、そういや食べたなぁ……ローストビーフとか……。

トイレを流しつつ洗面台で口をゆすいで、シャツが汗ばんでいる事に気が付いたのでとりあえず着替える。喉が渇いていたのを思い出したので水を一杯飲んで、再び床に就く。半端に酒が残っているせいで目が冴えて、スッと眠りに着く事が出来ない。昨日酔う前に自分が何を思いついたのかなんて、最早忘れている。

このまま死んじゃったらどうしよう。

急死した有名人の事とか思い出す。平均寿命なんてものは、長生きする人がいる一方で短命な人がいるその平均なんだとか、日中は気にならない死という出来事が怖くなる。テレビや映画で見るような「台本に予定された死」など、本当の人生には無い事を考える。これから眠ったらもうそれで最後かもしれないという漠然とした不安が湧き出る。その先にあるのは、永遠で、無なのだ。

明け方に悩んだことが馬鹿らしくなるくらいに朝は自然に目が覚めて、勤務先へ行く準備をする。残された人生を充実させて生きるんだ、そのためには、よりステップアップ出来るところへ転職しなきゃならないんだと自分に言い聞かせる。

― 今のままじゃダメなんだ ー
― 変わらなきゃいけないんだ ー
― 俺は変わるんだ ー
― 人間は変われるんだ ー

変われないまま、数年が過ぎている。

死がいつ訪れるのかはわからないが、雇用契約はあと2ヶ月で終わる。

死ぬのも怖いが、今は無職になる方が怖い。

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