タイムリーパーTAKUYA

「今日は、2016年1月18日です」

テレビカメラの前に立ったTAKUYAは、その言葉を噛みしめるように切り出してから今回の出来事に関する謝罪をはじめた。つづいて、そこに出演している他の4人も一言ずつ謝罪する。

「今回MASAHIROがトリガーだったという事は、これで第3層はループエンドか。だとしたら次は俺だな……」

TAKUYAはそんな事を思いながら、このコーナーが終わるのを待っていた。放送は無事終了し、出演した5人はスタジオをあとにした。それまで個別に与えられていた楽屋だったが、今回は5人で大部屋一つ、という扱いになっていた。

大部屋。また失敗したのだ。

「あれ? お前だけネクタイ白いの?」

いつも陽気なSHINGOがTAKUYAに尋ねた。ハッとしたTAKUYAは楽屋の鏡を覗きこむ。確かに、白いネクタイを締めていた。

「スタジオに入るまでは黒だったのに……そうか、本当に俺の番なんだな」

自分の番が回ってきた事を、TAKUYAはそのネクタイの色で覚悟した。

「おーい、一人だけ白いネクタイして自分だけ目立とうってか?」

ついさっきスタジオで自分が喋った事を忘れたかのような口調で、MASAHIROが話しかけてきた。TAKUYAは軽く笑い返したが、内心穏やかではなかった。

「あの新聞さえ出なかったら……今度こそ本当にこのリープを抜けられたかもしれないのに……」

そう思いながら、TAKUYAはMASAHIROの眼を見る。

「……なんだよ気持ちわりーな。とにかく、これからまた頑張ろうぜ」

ああ彼はリープエンドしたのだ、とTAKUYAはそこで改めてMASAHIROをあきらめた。

世間の反応は、これまでTAKUYAが見てきたどの騒動よりも大きかった。こういった騒動は、自分たちがその能力を持ってから4回あった。KATSUYUKI、GORO、TSUYOSHI、そして今回のMASAHIRO。もうチャンスはあと2回、いや正確には自分に与えられた1回分しか残っていない。

タイムリーパー。時間を過去へだけ戻れる能力を持つ人間。

——

窓ひとつない、コンクリートがむき出しになった内装の部屋。

「うっかり最初の人間を”メンバー”と呼んでしまったのが間違いでしたね。やつらはそれで感づいた」

女の発言に、男は何も無い天井を見つめながら答える。

「確かにな。しかしあきらめの悪い奴らだ……今は4層目か?」

「いえ、KATSUYUKIはリープアウトしましたので、3層目です」

「そうか。まあいい、まさか奴らは自分たちがリープする際に記憶を保ったままという事は知っていても、こちらも同じくその記憶を保ったまま連れ戻されているとは思うまい。何度も似たような歴史につきあうのは、少々退屈だがな」

「しかしこれでMASAHIROのリープが閉じますので、次はTAKUYAの番となります」

「TAKUYAか……。メンバーの中ではこのおままごとみたいなリープを一番楽しませてくれそうなヤツだな」

——

「ここへは来るなと言ったよな?」

自宅のガレージでバイクの整備をしていたKATSUYUKIは、振り向きもせずにそう言った。それを聞いたTAKUYAだったが、構わず喋りはじめる。

「……教えて欲しいんだ。リープエンドになった人間が、どういう精神状態になるのかを」

「そんな事俺に聞かれてもな。俺はリープ”エンド”じゃなくてリープ”アウト”した人間だ。答えられることといえば、リープを諦めた人生もそれほど悪くないってことさ」

「……テレビ観たろ!? MASAHIROがリープエンドになったんだ」

怒りを抑えつつ喋っているTAKUYAの方をようやく向いたKATSUYUKIはオイルまみれの手をタオルで拭きながら、

「知ってるよ。興味ないと思っても嫌でも目にするしな。……コーヒーでも淹れようか?」

とまるで関心が無いような口調で無表情に答え、バイクを整備していた工具を片付け始めた。

「俺がダメだったら!! SHINGOが覚醒するかもしれないんだぞ!!」

TAKUYAは突然そう怒鳴ると、ガレージの壁をドン、と叩いた。KATSUYUKIは我関せずといった感じで、ガレージ隅にあるコーヒーポットに水を入れ、ヒーターにかけてお湯を沸かしはじめてから軽くため息をついたあと、TAKUYAに尋ねた。

「もし、そもそも予定されている結末が”SHINGOの覚醒”だとしたらどうする? 今まで俺たちが何度となくやって来た事は全部無駄だったってことさ。だから俺はリープアウトしたんだ。お前もリープエンドになるのが怖いんだろ? だからここへ来たんだろ? ……だったら、なぁ、そうなる前に”取引”してリープアウトしたらいいじゃないか。『一度きりの人生』の方が人間らしいぜ?」

KATSUYUKIからその言葉を聞いたTAKUYAは一瞬鬼の形相になったが、喉まで出かかっていた彼への酷い悪態を何とか堪え、一度呼吸を整えてからKATSUYUKIに告げた。

「……俺が使う『リーパー』は”ドウカティ”だ。お前とカブるが、そっちはもう使えないからそれでいいよな」

「バイクか。……まあそうだろうな。GOROのマセラティよりはトンズラしやすいし、TSUYOSHIのサイバーダインみたいに全裸にならなくてもリープ出来るからな」

「お前それ、あいつらの前で絶対言うなよ。自分たちがなぜあんな事件を起こしたのか、その本当の理由はもう覚えちゃいないんだ。二人ともリープエンドした人間なんだからな」

「……今日からはMASAHIROにも、だろ?」

KATSUYUKIのその発言を聞いたTAKUYAは言葉に詰まり、何も言い返せなくなった。

——

「リープアウトしたいというのかね?」

男は冷静を保ったつもりでそう聞き返したが、内心嬉しい事が表情から見て取れた。

「……ただし、条件があります」

TAKUYAの口から出た”条件”という言葉を聞いた男の顔からは笑みが消え、途端に不機嫌になって、

「ああ、KATSUYUKIから聞いたのか。本来リープアウトした人間からではなく、私から話す事なんだがな」

と吐き捨てるように言った。ひるまずTAKUYAは続ける。

「……リープアウトすれば、今後リープしてくる人間の影響を受けない人生を送れると聞きました。俺は何度この人生がリープしようと……今と同じ妻と子供たちがいる家庭で暮らしたい。それが出来るなら……」

「ふん、KATSUYUKIに比べたら複雑な希望だな。あいつの願いはひとつだったぞ。お前の願いは、正確に言えば複数ある。”家庭”という言葉で済ませばひとつだが、正確には”妻”と”子供たち”だ……そのどちらかが必ず途中で揺らぐリープを繰り返すことに立ち会い続けるかもしれんぞ? 例えば事故とか、病気とかな……」

「そんな!!」

「ハハハハ……。まぁそれじゃあお前も受け容れられんだろうな。どちらか、ということであれば、お前も懲りずにまたリープを続けて何とか”約束の地”へたどり着こうとあがくのが目に見えている。わかった、今回だけ特別に、その”同じ家庭”という、正確にいえば複数の願いと引き換えに、お前をリープアウトさせてやろう」

「……」

TAKUYAは沈黙したまま、男がその手続きを始めるのを待った。座っていた机の引き出しを開けた男は、そこに入っている何かの装置をカチャカチャと叩いた後、机の上に両手を置いた。すると机が青白く光り、同時に男の両手両眼も同期して発光しはじめた。今机に座っているのが「その本人」であることを確認するかのように机はしばらく光り続け、それが止むのと同時に机に掘られた穴から1枚のトランプがポップアップして出てきた。男はそれをとってかざすとこう言った。

「さて、リープアウトするということは、”改めて”契約するということになる。……契約するための儀式、まずはそれに必要なものを持ってきているか?」

TAKUYAはうなずくと、ポケットから10ドル札を取り出した。それを渡そうとした瞬間――

TAKUYAの立っている側とは反対の壁がジュッという音を経てて粉々に砕け散り、差し込んできた外光でその部屋は隅々まで見渡せるほど明るくなった。

「うわっ!!」

突然の光に驚いた男が自分の目をかばったその一瞬のすきを見て、崩れた壁の向こうから飛び込んできた何者かがその男の手に持っていたトランプを奪い取った。

「この時を待ってたんだ!!」

ヘルメットを被ったその乱入者はトランプを懐に入れるとTAKUYAの手を取り、崩れた壁の方へ走り始めた。

「え、ちょ、待てよ、ここ3階……」

言い終わらないうちに、二人はドスンと地面に着いた。不思議な事に階段を一段踏み外した程度の衝撃しかなかった。それが何故かを確認する間もなく、ドゥルルル、というエンジンの咆哮がTAKUYAの耳に飛び込んできた。

「やっぱリーパーがバイクってのは俺の方が似合ってるな!! 乗れ!!」

「KATSUYUKI……お前KATSUYUKIなのか!?」

「いいから乗れ!! 話はあとだ!!」

TAKUYAがここへ来るのに使った自分のドウカティのタンデムシートにまたがるや否や、KATSUYUKIはスロットルを思い切りふかした。

「ちょ、おい、二人乗りなのにウィリーしてんじゃねえよ!!」

「ハハハハ!! 振り落とされんなよ!!」

二人を乗せたバイクはそのまま加速し、タイヤ痕とその匂いを残して、ストリートから「消えた」。

——

80年代の東京は何故だかきらびやかで、(これから始まるはずの)バブル景気のまだほんの匂いだけがするその街で働く人々の行動は活気に満ち溢れていた。

「またここからスタートか……。しかも夏だし……春が良かったな……」

新宿アルタを見上げながらTAKUYAがそうつぶやくと、KATSUYUKIはポンポンと肩を叩いて、

「ほらほら、そんな40過ぎのおっさんみたいなツラしてると、”まるで40代みたい”って言われるぜ」

と茶化した。さっきまで文字通り40代だったお互いの風貌は身なりだけそのままで、身体は10代のそれに戻っている。

「……そうだな。しかし毎回この感覚を戻すのが大変で……っておい!! 何でお前もタイムリープ出来てんだよ!! リープアウトした人間だろ!?」

「俺はもう、リープアウトしたKATSUYUKIじゃない」

真顔になったKATSUYUKIは、TAKUYAの眼を見てそう言った。

「え、じゃあお前は誰だよ!!」

「言い方が悪かったな……俺はお前の知ってるKATSUYUKIだよ。ただし、”このトランプを持っている”KATSUYUKIだがな。」

「おい、ちょっと待てよ。ただでさえリープ直後で時差激しいのに、話ややこしくすんなよ!!」

「それより聞け。俺がリープアウトしたように見せかけたのは、”お前の番”を待ってたからだ。今までの三人にはない、お前だけのギフトがあるからだ」

「説明も無しにそんなこと言われても意味わかんねぇよ」

「いいか、今回のリープスタートは88年じゃない、83年だ」

「83? ここ83年なのか? 何故だ!? “俺たち”がはじまってもいない時間まで戻って、何をするんだ」

「ある男に会うのさ」

「男!? 誰?」

「リープアウトにもリープエンドにもならずに、リープを抜けた男さ」

「そんなヤツいるのか!?」

「その男……この時間(タイム)ではまだ少年だが……そいつに会えば、俺たちも同じことが出来るかもしれない。もしかしたら、GOROもTSUYOSHIもMASASHIROも、”リープリセット”されたそれぞれの世界で暮らせるかもしれないんだ」

「そいつは誰だ!? 俺の知ってるヤツか!?」

「知ってるも何も、俺らの先輩だよ。そしてそいつが使ってたリーパーは……ローラースケートだ」

その言葉を聞いて、TAKUYAの体に電流が走った。

「『あいつ』もリーパー使いだったのか!!」

だとしたら、83年の夏、向かうべき場所はひとつ……

「原宿か!!」

そう言ってJRの改札に向かって走りだしたTAKUYAを追いかけながら、KATSUYUKIは大声で、

「忘れてるだろうけど、まだ改札でSuica使えねぇからなーッ!!」

と叫んだ。

タイムリーパーTAKUYA
NEVER END

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