レジ打ちガールとつきあいたい

相変わらず貧乏なので、晩飯はスーパーの”おつとめ品”になる事が多い。

最寄りのスーパーの傍らにはリトル・マーメイドというパン屋があって、なかなかに美味いのだがコンビニパンなどと比べて倍ほどの値段がする。

その店が20時に閉店すると、20時半頃にはスーパーへ売れ残った商品が半額シールを貼られて搬入されてくる。私をはじめこれが目当てで集まった客という名のおつとめ品ゾンビたちはいっせいにそのバケットに群がり、やれバタールだのやれめんたいフランスだのをかっさらっていく。

次の日の朝食に金を掛けたくない場合にはこのパン半額を狙うのだが、その晩のうちに何か馳走を食べたい場合には23時過ぎにそのスーパーへ行く。24時閉店であるから既にこの日限りの各種おつとめ品には半額シールが貼られている。寿司に刺身にローストビーフにと、黄色い背景に赤字で「レジにて半額引き」と書かれたシールが貼られる。

最後まで半額シールが貼られることを粘るのが寿司だ。

片手に半額シールと半額商品をおつとめ品扱いにするPOSを持つ店員の周りには半額にならなければ死んでも金は出せない連中が遠巻きに集まり、徐々にその距離を縮めていく。まるでアフリカの大草原で死にかけているシマウマがこと切れるのを待ちかねているハイエナのようだ。

半額の魅力は、何といっても定価の50%引きになるということで、同じ値段で倍食えるということは自身が空腹である場合非常に重宝する。10貫の寿司パックであれば、20貫食えるのだ。寿司を一度に20貫も食うなんてことは、こんなチャンスでなければ滅多に味わえない。

最近は体に気をつかって、カットフルーツのおつとめ品を買うようになった。ばちがあたるなんてもんじゃない贅沢だが、残った商品が捨てられることは貧しい国々の人たちが聞いたら何と思うかという人もいるので、同じく貧しいぼくが彼らに代わって消化するのである。

それらを食べる際、喉を潤しながら食したいので酒なんぞも買う。スーパーの酒は定価よりも安く、特にチューハイは自動販売機のジュースよりも安いので、迷わずこれも買う。銘柄はストロング・ゼロ、容量は350ml。景気のいい時には500mlにする。最近は冷えてきたので時々熱燗が欲しくなり、パック酒を買うこともある。チューハイに比べて高価だが、それだけの価値はある酒類だ。

これらをカゴに入れてレジへ向かう。

昼間このスーパーのレジはほとんど女性が打っている事が多いが、深夜になると男女比が半々くらいになる。24時閉店といってもそれは客がいられる時間の話で、実際にはそのあとレジを閉めたり掃除をしたりといったことをしなければならないのだろうから、実際に帰る事が出来るのは早くて30分後、遅いと1時を超えるだろう。最寄り駅の終電は、とっくに終わっている時間だ。

レジ打ちガールとつきあいたい。

決して高いとはいえない時給で延々とレジ打ちをする、そういう仕事を続けられるという事は、そこからはじき出される給金で生活するもしくは生活の一部を賄う覚悟があり、また同時に忍耐力も持ち合わせているという事だ。つきあいはじめたとしたならば、

「ぼくも遊ぶほどのお金はそう無いんですよ」

という言葉を赦してくれるだろう。QBショップで散髪し、ユニクロで服を買い、スーパーのおつとめ品が馳走な生活をしているぼくを赦してくれるだろう。公園のデートを、サイゼリヤでのディナーを、漫画喫茶のカップルシートで一夜を過ごすことを赦してくれるだろう。コンドームを買う金もないんだと懇願すれば、感受性が強いが故の意図しない中出しを受けとめてくれるかもしれない。

「私が出すから」で始まり「稼ぎもろくにないくせに」で終わる、高給取りとの恋なんてもうまっぴらなんだ。

レジ打ちガールと付き合いたい。貧乏長屋に所帯を持って、いつか彼女をこうねぎらいたい。

「お前に患われてみねぇな、明日から遊んで酒が呑めねぇ」

Be the first to comment

Leave a Reply

Your email address will not be published.


*