誘拐

「おかけになった電話番号は、現在教えて欲しくば1千万用意しろ!さもなくばおかけになった電話番号の命はないぞ!」

出し抜けに脅迫された大統領(ハリソン・フォード)は、困ったけれどそんなに困ったことではないかもしれないかもでも筋肉的には困ってる感じだけど内心は安らぎを得ています、といった感じの、彼が出ている映画でよく見る表情でオヨヨと思いつつ受話器を置いた。チン。

大統領は考えた。

いかん、電命がかかっている、これは。大統領としてどう行動すべきか。まてよ、今この電話を聞いたのは私一人だ。私がこのまま闇に葬ってしまえばいいのではないか。一千万と電話の命、やっぱ金よねぇと思ってたらドミノピザが来たので昼食にしました。なか卯に行きたかったけど、時間ないからなあ。

電話番号はいつまでたってもかかってこない返事に涙した。確かに私は0120から始まるフリーダイヤルかもしれない、でもね、お金がかからないからっていって、誰でもいい訳じゃないのよ。求めているのは愛。電話番号は許しても、体は許さないわ。そう言ってやるんだわ、あいつに。あのシャイなあん畜生に。あいつはシャイだから無言のまま私をレイプするに違いないわ。184発信で。何がお客様サービスセンターよ、私は人形じゃないの。電話番号なの。いいようにされてたまるもんですか。引っ越さない限りこの番号を変える気はないわ、って意地張ってたら、「フリーダイヤルは引っ越しても番号変わらないよ」ですって、何様のつもりよ。東日本と西日本で私を監視しやがって。いつか見返してやるんだわ。ブロードウェイに立ってやるんだわ。カーテンコールしてやるんだわ。リダイヤルなんか目じゃないわ。

「おい、時間だ。おまえの王子様は来きゃくれないようだぜ」

男はそういうとフフフと笑い、乱暴に私のあごをシャクった。

「可愛そうになぁ・・・だがしかし、本当に悲しい出来事はこれから起こるんだぜ」

男はくい、と軽く首を曲げ、部下に合図した。

「今日はおまえに合わせたいやつがいるんだ・・・」

ガチャリ、とドアが開いた先に見たものに電話番号は青ざめた。

厚い胸板、黄色い表紙。

「タウンページ!」

「そうさ、お前さんが惚れているタウンページだ。今からこいつにお前さんの見ている前でちょいと仕事をしてもらおうと思ってね」

「なっ、何を・・・」

「おい、この番号が大事なんだろ。さっき言われたとおりにはじめるんだ」

タウンページはしばらく電話番号を見つめた。その目には涙がたまっていたが、男の部下にぐい、と肩を押され、受話器を取って自分をめくった。ピ・ポ・パ・・・

「はい、もしもし」

「おらボケ!お前んとこの製品どうなっとんじゃコラ!」

クレーマーだ!フリーダイヤルにとって最大の陵辱となるクレーマーをタウンページがやらされている。見ず知らずのフリーダイヤル相手に・・・

「いやああ!やめてぇ!私の見ている目の前で、他のフリーダイヤルにクレームつけないでえぇ!」

電話番号は大声でそう叫んだが、男はすぐにさるぐつわをかまし、電話番号はその様子を声を出せないまま見続けることになった。

大統領はピザを残した。

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