妖怪ウオッチと親子の絆

離婚した妻との間に生まれた彼は、今年で8歳になった。離婚が成立して、もうかれこれ4年半くらいになる。別れた当時、彼はまだ3歳半だった。

離婚調停の協議で、月に一度、5時間だけ逢えるという約束をした。

それまで毎日顔をあわせていたので、5時間という時間はわたしにとってあまりに少なかったのだが、ある程度成長するまでは子供に負担をかけたくないという元妻側からの要望で、それを承諾した。

別居した当時、彼が好きだったのはアンパンマンや機関車トーマスといった幼児向けのコンテンツで、持っているおもちゃではプラレールやトミカに愛着を示していた。

彼と逢うわずかな時間を楽しむため、毎月どこに行こうかと面白そうなイベントや施設をインターネットで検索しては、それらが約束されている時間までに帰れるか、移動時間がかかりすぎやしないかなど確認し、連れて行っている。

そのうちに彼は仮面ライダーや戦隊ヒーローといったものが好きになったので、東京ドームシティでヒーローショーを観たり、クリスマスプレゼントにライダーブランドのグッズを送ったりしていた。

2014年の3月にあった時、彼の話から仮面ライダーは随分少なくなっていて、代わりに「妖怪」の話をするようになっていた。

「ねぇ、ムリカベ知ってる? ムリカベ」

最初に聞いた時、水木しげるの描く妖怪「ぬりかべ」の事かと思い、「ゲゲゲの鬼太郎」が好きになったのかな、と思った。滑舌が上手くなくて「ムリカベ」と言っているんだろうなと推測した。

「妖怪ウォッチに出てくるんだよ、ムリカベ」

「妖怪ウォッチ」というコンテンツと、それにまつわるブームは知っていた。知り合いがfacebookで「どこに行っても攻略本が無い」と嘆いていたのを覚えていた。

ああ、そういうブームに影響を受ける歳にもなったんだな、と思って彼の話を興味深く聴いた。家に送る途中、彼はゴーケツ族の出現テーマを延々歌っていた。「グレるりん」という妖怪が一番のお気に入りらしく、登場ポーズ付きで歌ってくれた。

あれだけ好きだった仮面ライダーも戦隊ヒーローも、その後ぱったりと話をしなくなった。番組の改変期だったことが理由の一つかもしれない。出かけた先で記念写真を撮ろうとすると必ずやっていたウィザードの変身ポーズはいつのまにかメラメライオンの構えになり、お出かけの日に持ってくるおもちゃはガブリボルバーから妖怪ウォッチ零式へ変わっていた。

丁度huluで妖怪ウォッチが配信されていたので、第一話から観る事にした。ポケモンに比べると随分下品でニッチなギャグが挟まれていたが、わたしとしてはそこが面白く、以来息子のためというよりは、自分で楽しむために毎週視聴するようになった。

彼が妖怪ウォッチ好きだと知って、右も左も分からないままにプレミアムバンダイで購入したキャラTシャツ、そこに描かれた妖怪たちにどんな特徴があってどんな性格なのかが、アニメを観ているうち次第にわかるようになってきた。

それからまたしばらくすると、彼は3DSを持ってくるようになった。その日の移動先までの電車やレンタカーの車中で、「妖怪ウォッチ 本家」をプレイしていた。

丁度その頃が劇場版アニメの公開時期で、チケットを取って二人で観に行った。その時の感想はこのnoteに書いたが、その頃にはわたしもすっかりこのコンテンツのあれこれに詳しくなっていた。

「そろそろわたしも3DSを買うべきなんじゃないのか」

そう思ったりもしたが、大して稼ぎがある訳でもないわたしにとって、3DS本体とソフトを買うだけの出費は悩む額ではあった。

一ヶ月ほど考えたのち、購入を決断した。新品の本体と中古の「妖怪ウォッチ」、「妖怪ウォッチ2 真打」を買った。

とりあえず息子に追いつかなければならないので、まずは「妖怪ウォッチ」をクリアした。おまけ要素などはあとにまわして、とりあえずストーリーモードだけを一日10時間くらいプレイしたら、3日でクリアできた。

そして続編となる「妖怪ウォッチ2 真打」をプレイした。格段に操作性が向上していて感心したが、追加マップがあるとはいえ舞台が同じ場所なので、続けざまにやったわたしは少々退屈だなとも感じた。

それをまた三日くらいかけてとりあえずクリアした。次に息子に逢う日までまだ日が残っていたので、それでようやく一日あたりのプレイ時間を2時間程度に控え、サイドストーリーや妖怪メダル集めを楽しむようになった。

その次の面会日、息子はわたしが3DSを持っている事に驚いたが、すぐにメダル交換や対戦プレイをリクエストしてきた。以来、逢った日の電車で移動する時間は二人で通信して車中の暇を潰している。

今年の7月、その妖怪ウォッチシリーズの新作となる「妖怪ウォッチバスターズ 赤猫団/白犬隊」が発売された。発売前に彼にどちらのバージョンを買うのか尋ねたところ、「白犬隊」と答えたのでわたしは「赤猫団」を購入する事にした。amazonで予約したその商品は果たして発売日に到着し、私はまた一日10時間くらいプレイして、数日でとりあえずエンディング・ムービーを観るところまで行った。そしてまたプレイ時間をほどほどに戻して、彼と会う日に交換するメダルを集めるために、ちょこちょこと妖怪大事典を埋めていくようになった。

このゲームでレアな妖怪メダルをゲットして彼に渡すという作業は、宿題をみてあげたり日々の振る舞いを褒めたり叱ったりする事が出来ないわたしにとって、ある種の喜びになっていた。そもそもレアメダルを入手する手間や確率を考えると、そのためだけに息子が延々このゲームをプレイするのはもったいないという想いもあった。

年に数回、お泊り付きの面会を許されていて、直近ではこの夏休みに彼はわたしの部屋に来た。彼の3DSにはインターネット環境が設定されていなかったので自室のWi-Fiと繋がるようにして、ソフトのバージョンアップをしてからダウンロード特典を入手すると、たいそう喜んだ。

「おうちでもダウンロードできるかな?」

そう聞かれてもわたしには答えようがなかった。別れて以降元妻が住んでいるマンションには玄関前にすら訪れておらず、彼と会う日に引き渡しで訪れるのは元妻の実家だったからだ。

「きみのおうちはわからないけど、ばぁばの家だったらWi-Fiがあったと思うから、そこからならダウンロードできると思うよ」

そう答えてその時は終わった。

先週彼と会って、いつものごとく移動中二人で通信プレイをしている最中、彼がこう言った。

「今ね、Wi-Fiで”遠くのおともだち”と対戦してるんだよ。ばぁばん家だったらWi-Fiで遊べるんだ」

何気に言ったわたしの言葉を彼は覚えていて、ばぁばの家のWi-Fiと3DSとの通信設定が出来たらしい。おそらくその家の誰かが設定してくれたのだとは思うが、週に一度の妖怪メダル配信などが楽しめるようになったのはいいことだと思った。

昨日の晩。

仕事から帰ってきて3DSを開いて、さて残りの妖怪メダルを集めるかと思って通信モードを立ち上げた。

おともだち登録していた、彼のハンドルネームがそこにあった。

特に申し合わせたわけではなく、偶然だった。びっくりしたのと同時に、それまでこのゲームでは味わったことが無い胸の高鳴りを感じた。

月に一度しか逢えない彼が、このWi-Fiの向こうにいるのだ。

さっそく協力プレイを申し込んで、ミッションを選ばせた。よせばいいのに、今のレベルでは勝てないであろうボス妖怪たちを選び、予想通り我々は数度全滅した。

いろんなアドバイスをしたかった。このゲームには一応定型文を送信するかたちの簡易チャットがあるのだが、「お前はひょっとして俺の息子なのか?」などと問いかける文章はなく、「ドンマイ!」とか「よろしく!」とか、励ましたり気遣ったりすることしか出来なかった。

ふと時計を見ると20時になろうとしていた。お泊りの際、彼は就寝時間はいつも20時で、遅くても20時半だと言っていた。まだまだ彼と遊びたいという気持ちを抑えて、簡易チャットの定型文の中から、

「そろそろやめるね」

というメッセージを送った。彼からは、

「おつかれさま!」

という返事が返ってきた。

しばらくしてから再度繋いだ通信リストの中に彼のハンドルネームはなく、どうやらちゃんとゲームをやめられたらしかった。

さっき一緒にプレイしていたのがわたしだったことに気付いてくれたかな、などと思いつつ、その日は就寝した。

12月12日、このゲームに「月兎組」という無料のダウンロードコンテンツが配信されるという。今年の劇場版アニメと連動した追加ストーリーや、劇中に登場する新たな妖怪が出てくるらしい。

今度はわたしの家にお泊りに来る前に、配信開始当日にばぁばのおうちまで行けば、そこでダウンロードしてすぐに遊ぶことができるな、と思った。

そしてその翌週の12月19日は、劇場版アニメ「映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!」の公開初日だ。面会の都合さえあえば二人で観に行く予定で、既に前売り券を買って特典のウサピョンベイダーモード妖怪メダルを確保してある。満席になると思うけど、楽しめたらいいな。

かくしてわたしとわたしの息子は、別れたとはいえ未だ現在妖怪ウォッチを介して親子の絆を深めているのである。だから「たかがゲーム」なんてレベルで話をあわせる訳にはいかないのだ……ウソです単純に楽しいですわたしが。

その証拠にバスターズ赤猫団結成当初のメンバー四匹は全て進化させてレベル99まで育てましたので、何卒ご理解ください。

引き続き、妖怪大事典100%目指してまい進したい所存です。

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